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 マナは、久々にレーゼルとニイルと会っていた。
 レーゼルは元々王家に近い家の出なので城に出入りすることが多かったことに加え、マナが父の仕事を手伝うようになったため、なかなか三人が揃う機会がなかったのだ。
 それに焦れたニイルがいいからこの日を空けろ、と強行にねじ込んでこなければ、揃って会えるのはもっと先になっていただろう。
「そういえば、結婚話はどうなったんだ?」
 身を乗り出して聞いてくるニイルに、もしかしたらこれが本題だったのだろうかと他人事のように思う。レーゼルの予定にやたら拘っていたのは、二人ともが気になっていたからだろうか。
 人魚とのことがあってから、結婚の話は出ていない。
 父は単に釘をさしたかっただけのようだし、どうも母はそれどころではなくなってしまっている。
 だが、それを説明するわけにもいかないので、端的に。それでいて衝撃的な言葉で煙にまくことにする。
「うん。実は失恋したんだ」
「おう。それはご愁傷さまな……って誰に!? 名前は?」
「えー名前は相手にも悪いし、言えない」
 マナが彼女に送った名はラピュタの王族の女性に多いのだ。教えるには差し障りが多い。
「……実はマナの勘違いとかだったりしませんか?」
「え、勘違いって?」
「ふられたと思ってるだけだとか、そもそも恋をしているつもりなだけだったとか」
 変なところで鋭い。さすがレーゼル。
 正直に言えば、曖昧な点は多い。自分の気持ちにしても、彼女の気持ちにしても。でも、それは解き明かさないことにしたのだ。曖昧模糊としたものは、全て水の底にある。それでいい。
 ここに、とマナは胸を押さえる。
「ぽっかり穴が空いたような気がするんだ。だから、失恋でいいんだと思うよ」
「ナンダもしかしてとんでもないとこでも見ちゃったのカ?」
「なんでちょっと片言なんです?」
「女兄弟のいないお前たちにはわかるまい……。女ってのはでかい猫を飼ってるんだ。例え見たとしても見なかったことにすればいいんだ!」
 うおおおおと苦悩するニイルを無視して、さっさと話題を変える。
「あ、女の人の見たことのなかった一面っていうと、母さんがやきもちやいて大変だった」
「おじさん、浮気でもしたんですか?」
「んー、父さんの初恋みたいなものについて話をしてたのを母さんが聞いて、大爆発」
 血のなせるわざか父も人魚にマナと同じ名をつけていたというのだ。それを小耳に挟んだ母が取り乱して落ち着くまでさらに一波乱あった。心が浮ついたらもう浮気なんですからね、と懇々と訴える母を最後は父が回収していたが……。
「そのうち弟か妹でもできるのかなー」
 ぼそっとした呟きを聞いてしまったレーゼルがぎょっとしていたが、マナはさっぱり気づかなかった。

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