見果てぬ夢
空を見上げて、変わらぬ青さに彼女は目を細めた。差し込む日の光は鋭い痛みさえ伴って瞳に焼きつく。どこまでも続くように見える空が、実は壁だと彼女は知っている。外の風景を映し出す、壁なのだ。彼女に限らずラピュタ国民は、みなそれを知っている。
軽い羽音をたてて鳥が飛ぶ。少し離れた家の屋根に止まるのを見届けて、彼女は部屋のカーテンを閉じた。
瞬間的に真っ暗になった部屋は、しかし目が暗順応するにつれてランプを一つ灯せば十分と言える明るさに落ち着いた。机の上には乱雑に広げられた何枚もの地図や設計図。端がぼろぼろになりあちこちに書き込みがされ、持ち主が長い時間をその紙と過ごした事をうかがわせている。
幼いころから、良く空を見上げる子供だった。青い空。あるいは満天の星降る漆黒の空。彼女の記憶には印象的な空の映像が多い。友達と楽しく遊んでいたら晴れやかな空、母に叱られてめそめそしていると包み込むような空、一人迷子になって知らない道を歩いていると心細さを助長させる抜けるような空。変わらない青い空はいつでも彼女の心情に沿ってその見え方を変えているように思えた。空。空。
彼女は普通の、ごく普通の一般市民だった。ただ、幼いころから心の奥底に息づいている空への渇望をのぞいては。
屋根から中心地の木に向かって飛んでいく鳥を目にして、彼は微笑んだ。自由に飛ぶ鳥はとても美しいと思う。生命の輝きに溢れ、枝を伸ばし根を広げていく大樹。細心の注意を払って育てられてきた木は今もまだ成長を続けている。久しぶりに実際に足を向けた彼は飛び交う鳥と、そこここに見える小動物の影を目で追う。
慣れた彼にはすぐに判別がつく。何より、この国にはそう沢山の種類の動物はいない。家畜として工場で飼われている数種の動物に、たまたまこの国が空に位置を移したときにそこにいた動物。一部の人間が飼っていた愛玩動物。それらを掛け合わせて作られた、この国にしかいないと思われる動物。
幼いころから、動植物が好きだった。古くから伝わるおとぎ話、昔ながらの絵を残した絵本。そこに登場する見たことのない幻想的な生き物に彼はいつだって心奪われてきた。その生き物たちが幻想種ではなく実在するのだと気付いたのはそう昔の話ではない。一部はおそらく実在しないのだろうけれども、ラピュタが捨ててきた地上には、今も人がさまざまな動植物とともに暮らしているに違いない。
どこまでも広がる草原、豊かな海、先が見通せない森や、常に雪吹きすさぶ山。存在を知っていても、見たことのない美しい景色。
彼は普通の、ごく普通の一般市民だった。ただ、幼いころから心の奥底に息づいている地上への渇望をのぞいては。