見果てぬ夢
ラピュタの建国記念式典は毎年盛大に祝われる。この日ばかりは使用できる資源の量に制限はなく、王家の威信を示すためか水芸なども盛んに行われる。ラピュタという国がいかにして作られたのか知る人はいない。歴史学者は調べているが、なにぶんこの国はかつて地上を捨てている。発掘できる遺跡など存在せず、周辺国家との関わりなどについて論じることもできない。必然的に、彼らの知識はラピュタが空に浮かぶ国になってからに限られているのだ。
もちろん、伝説は存在する。
かつて飛行石を神から授かった一族が、国を作り繁栄し、やがて周囲との争いごとに倦み空に理想郷を作った、という。
「どう思うかしら」
「全ては時の流れの向こう、だね。正式な記録が残っていないのは不思議だと思うよ」
建国記念式典に合わせて休みをとった二人は、外殻の近くの公園にいた。大して管理されておらず、定期的に水が散布される以外は植物の手入れなどされていない。養分が不足しているのか、花壇などに植えられているのと同種の花と比べて小さいものが咲くが、その可憐さが嫌いではない、と彼は思う。
彼女が作ってきた簡単なサンドイッチに、少しハメを外して昼間からのアルコール。
わざとらしくグラスを触れ合わせて、ガラスの澄んだ音を楽しんだ。
「王家の中心部にある飛行石の制御回路」
「うん?」
あまり酒に強くないのか、すぐに頬を淡い色に染めた彼女はポツリとそんなことを呟いた。
「この間設計図を見たのよ、今の技術と殆ど変わらなかったわ」
「そうか……この国は今の状態で完成されてしまっているからね。うまく運営されているけどうますぎて変動の余地がない。変化を受け入れるだけの柔軟性がないとも、言い換えられる」
「……ああ、そうね。制度を変えるのには膨大な計算が必要になるわ」
「余剰資源がないんだ。きっと、地上からしてみれば不自然なんだろう」
視線の先には、楽しげに騒ぐ人々、音楽や踊りが得意な国民によるパレードが通過していく。
「……飛行石、の」
「かけらを手に入れたいと思ったことはあるかい?」
戸惑いがちにつぶやいた彼女の言葉。途切れたそれを、彼のささやき声が続けた。
「余剰資源が無いというのは、本当だ。でも公式に発表されている飛行石の大きさなら、もっと大きな国土を支えられる。万が一の事を想定してかあるいは可能な限り大きくしたのかはわからないけど、飛行石のかけらを手に入れてもこの国に即座に影響は出ない」
熱に浮かされたように彼は話し続ける。アルコールで多少頭がふわふわしているような気がしなくもなかったが、だが自分が何を口にしているのかは理解できていた。
「飛行石は王家のもの」
「国民がそれを手にすることは許されていない」
「なぜ?」
「わからない。単に全員に持たせるとキリがないからかもしれないし、権威付けのためかもしれない」
「でも、使い方はわかるわ」
「なにせ僕らはふたりとも、飛行石が発する力を動力源とする仕事に就いた」
「そんな意識はなかったのに」
「偶然だね。でも……」
「この話は」
今日はやめにしましょう、と赤ワインで濡れた彼女の唇が声にならない声を紡ぐ。おとなしく頷いた彼はグラスにワインを注ぎ直し、茶目っ気たっぷりに乾杯、と言ってみせた。彼女も笑いながらそれに答え、飲み干したあとは祭りの喧騒を楽しむべく、中心街へと向かった。